Venture Stories

0から1を生み出す。事業全体を経験する。スタートアップへの挑戦から得た学び|Moon Alumni Interview

2025/03/18

三井物産からMoon Creative Labへ出向し社内起業を経験した方々にお話を聞くアルムナイインタビュー。今回は、3人1組で宇宙人材の育成に必要な事業の創出に挑戦した「Eureca」チームのメンバーに聞きました。Moonでスタートアップに挑戦した彼らが学んだことは?

 

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白石 尚也(しらいし・なおや)さん。2022年4月入社、モビリティ第一本部フレートモビリティソリューション事業部に配属。米国トラックリース事業の投資管理業務や、その知見を活かした事業創出などに携わった。Moonに出向して起業に挑戦後、帰任。現在は、Light Vehicle ソリューション事業部で北米の乗用車販売および周辺新規事業開発に携わっている。

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長谷川 泰大(はせがわ・やすひろ)さん。2022年4月入社、人事総務部次世代人事データプラットフォーム推進室に配属。グループの社員全員のキャリア形成を補助するグローバル人事システム「Bloom」の導入プロジェクトに携わった。Moonに出向して起業に挑戦後、Moonのベンチャーの一つ「CARRIUM」やHRチームを人事経験者としてサポートした後、デジタル総合戦略部DX第二室(モビリティ担当)へ異動。現在はモビリティ領域でのIT/DX支援として、業務効率化および新規ビジネスの組成を行っている。緑がラッキーカラー。

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寄藤 悠佳(よりふじ・はるか)さん。2022年4月入社、流通事業本部流通インフラ事業部に配属。国内外リテーラー向け中間流通事業・商品輸出に携わった。Moonに出向はせず、業務時間の20%で起業に挑戦した。現在も上記に加え現事業のグローバル展開に携わっている。

 

*プロジェクト名「Eureca」は、商標登録を検討する際に、すでに登録があった「Eureka」のkをcに変更したもの。

 

目次

  1. 3人1組で事業の立ち上げへ
  2. 宇宙人材を育成する
  3. カリキュラムが人気に
  4. 0から1を生み出す 事業全体を経験する

3人1組で事業の立ち上げへ

入社前、3人はともに三井物産のインターンシッププログラムへ参加していました。金属資源本部におけるリサイクルをテーマに同じチームメンバーとして事業企画へ挑戦。ピッチコンテストでは見事優勝を獲得しています。入社後はメンバーそれぞれ別々の部署へ配属された後も、週に一度は顔を合わせて交流を継続。それぞれのバックグラウンドを活かし、Moonへビジネスアイデアを提案しようと語り合っていました。

白石さんは、エンジニアである父親や、漫画『宇宙兄弟』の影響から、技術や宇宙への関心がありました。長谷川さんは、教師だった両親や兄弟間で教え合う機会が多かったことから、教育・人材育成に、寄藤さんは観光関連の消費者行動や心理に関心を持っていました。

三井物産入社から約1年後、2023年2月頃に3人は、当時Moonで開催されていたビジネスアイデア募集プログラム「Illuminate」へ応募し、4月から始まるビジネスアイデアの具現化プログラムに参加することが決定。そこで3人が着目した問題が「宇宙ビジネスに必要な人材の不足」でした。

 

宇宙人材を育成する

宇宙ビジネスの市場規模は2040年までに150兆円に及ぶと予測されています。日本は製造能力や地理的優位性で宇宙ビジネスをリードできる可能性がありますが、人材不足が深刻です。

チームが考案したのは、STEAM教育をテーマにしたプロダクトによる人材育成でした。具体的には、人工衛星開発をシミュレーション環境で行う中高生向け教育カリキュラムの開発です。将来的には、実際に人工衛星を宇宙へ飛ばすことも視野に入れ、宇宙教育の促進を目指す構想でした。

8月には、このアイデアをもとにMoonのインキュベーションプログラムへ参加。プロジェクトは採択され、10月からMoonへの出向が決定。本格的に事業創出を開始することになりました。

この時点でMoonへ出向したのは白石さん、長谷川さんの2名。寄藤さんは配属された部署での業務が自身の目標と合致していたために、兼務での参加を希望。本店での業務時間のうち20%をインキュベーションに割り当てることにしました。

 

カリキュラムが人気に

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「出向初日は歓迎イベントで盛り上がりましたが、2日目からの自由度に困惑しました」と白石さんは振り返ります。

Moonでは専門家からサポートを受けることができますが、進め方は起業家であるアイデアオーナーに委ねられています。チームはまず、目標の定義から開始。議論しながら徐々にエンジンの回転数をアップしていきました。プロトタイプの製作では、白石さんと長谷川さんがプログラミングの経験を活かし、学習ツールを自ら開発。ユーザーテストでは、市場の10倍ほどの価格を提示しながらも、カリキュラムを購入したいという国内の学校法人の顧客を獲得しました。

開発したのは、直感的に人工衛星の仕組みを理解できる、学習用ウェブアプリケーションです。衛星が動作するシミュレーション映像が再生され、機能を視覚的に理解できます。プロダクトには確かなニーズがありました。STEAM教育が広く知られるようになった一方で、STEAM教育を受けたことがない教員も多く存在します。そのため、何をどう教えるのか、現場は混乱していました。

ユーザーテストでは「生徒たちが自分たちで考えて、手を動かして、構想から社会実装までを体感しながら学べたこと、何より生徒たちが楽しそうに取り組んでいたことがよかった」と教員から好評。

しかし、ビジネスのスケーリングには課題が見えてきました。チームは教育機関へのプロダクト販売と同時に、ターゲットの拡大を模索。大学生、社会人向けのeラーニングプラットフォームの開発や、育成した人材の紹介を検討しました。これまで大学生が使っていた教科書は分厚い英語のものばかり。学生を対象にした学習プラットフォームのユーザーテストは「これまでは文字から想像するほかなかった。このウェブアプリでは、動作を目で見て理解し、文字によって理解を深めることができる」と好評でした。が、求められた規模のスケーリングを解決するまでには至らず。残念ながら、2024年3月末にプロジェクトの中止が決定しました。

 

0から1を生み出す 事業全体を経験する

起業への挑戦について3人に振り返ってもらいました。


白石さん「ユーザーインタビュー、プロダクトの概念設計、アプリ・ LP開発、ユーザーテストまで、すべて自分の手を動かして実施しました。起業はこういうものなんだ、という肌感覚を得られたのは貴重です。今後の三井物産でのキャリアを考えても、投資される側の立場を味わうことができた唯一無二の経験でした」

 

長谷川さん「10年後にいくら必要かなどを今回ほど高い解像度で議論したのは初めてでした。ユーザーの意見を聞き、実現性を確認し、UIを自らデザインする過程は本当に楽しく、至福でした。営業活動をしてプロダクトが売れたときは心の底から感動しました」

 

寄藤さん「事業の一部だけでなく全体をマネージすること、そして、提供価値を自社のアセットではなくユーザーを起点にして考えるデザインリサーチの意味は大きいと感じました。当社で消費者領域に携わる方々もぜひ経験すべきだと思います」


3人に共通していたのは、0から1を自分たちの力で生み出したことに対する喜びと、事業全体に関わる貴重な経験を獲得できたことの重要性でした。

また、3人1組での起業の歯痒さも経験しました。メンバーごとの関心領域の違いは、視野の拡大をもたらす一方で理想像の乖離にもつながります。20%の業務時間をEurecaプロジェクトに当てた寄藤さんは、スピーディーに展開していく出向メンバーの議論に追いつけないもどかしさや、業務を8対2に明確に分けることの難しさにも直面しました。


3人は起業の経験を経てそれぞれ得たものや今後についてこう語ります。

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白石さん「Moonで学んだ手法はあらゆる場面に活用できるものだと思います。アイデアを可視化するフレームワークは、チーム内で相互理解できていないことが何なのかをよく整理してくれました。事業づくりは総合格闘技的。なんでもやらないといけませんし、必要なことは学ばないといけません。その上で誰かを頼ることも大切です。もっと頼ればよかったかもしれないと反省もしています。宇宙事業は投資が大きな意味を持ちますので、三井物産で投資管理の経験を積み、改めて機を見て宇宙に関わりたいと考えています」

 

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長谷川さん「事業の創造は、目的を明確にして自分が持っているスキルの手札を的確に切っていく感覚がありました。また、元々持っていた技術以外の手札に気づく機会もありました。例えば、関係各位からの信頼獲得、チームメンバーのエナジャイズ、難局を突破するレジリエンス、エンジニアとの対話を円滑にするコミュニケーション等です。Moonでは異なる強みを持つ人材がうまく噛み合ったときのパフォーマンスにも驚かされました。今後も挑戦から得られる自分にしかないスキルや強みを、キャリアに活かしていきたいと思います」

 

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寄藤さん「共同創業の良いところは相互補完できることです。技術や宇宙・教育分野では白石と長谷川の貢献が大きく、私は大学で学んだ行動経済学を活かしたマーケティング観点でチームに貢献できたと思います。今回の挑戦は、自分が何を通じてどう評価され、どれだけお金を稼いだのかという実感を得られる良い機会でした。三井物産での事業創造はもちろん、Moonでの再挑戦など、色々な場面で役立つと思います。会社員でいながら起業に挑戦できるのは貴重というほかありません。ワークショップだけでも参加をおすすめしたいです」

 



Moonでは、新規事業開発を促進するさまざまなプログラムを提供しています。学習プログラムについては「Learn」、インキュベーションプログラムについては「Build」、グロースプログラムについては「Grow」を、それぞれご確認ください。最新情報を受け取るには「Moon Community Member」登録をご検討ください。

Moon Creative Labで事業創出に取り組んでいるスタートアップの最新情報は、「Moon Stories Blog」で随時お知らせします。

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