三井物産の新規事業創出をサポートするMoon Creative Labでプログラムデザイナーを務めるフォンが、ビジネスアイデアを自ら起案して審査へと応募した自らの経験をシェア。
私は、2023年2月にMoon Creative Lab(以下、Moon)が開催するピッチイベントに向けて、初めてビジネスアイデアを提出しました。結論から言えば、審査を通過することはできませんでした。
三井物産で16年以上、Moonで4年以上働いてきた私にとって、失敗は初めてではありません。もちろん最後の失敗でもありません。アイデアが会社に採用されなかったからといって、なんらかのレッテルを貼ってしまうのは時期尚早でしょう。不採用になった経験を通じて、より深い考えや、これから先も忘れることのできない貴重な教訓を手にいれることができたのですから。
私が得たのは、「取り組むべき問題の特定は、解決策を見つけるより難しい」という教訓でした。なぜ解決策ではなく問題について考えるようになったのか、理由はいくつかあります。
問①:訪日観光客が荷物の量を心配せず好きだなけ爆買いするために、物流はどうあるべきか?
最初のアイデアは、多くの訪日観光客が持ちきれないほどのおみやげを買って帰るのを見たことがきっかけになって生まれたものでした。「訪日観光客が荷物の量を心配せず好きだなけ爆買いするためには、物流はどうあるべきか?」と考えはじめたのです。
私は免税店のレジカウンターで観光客の様子を観察し、直接話を聞いてみることにしました。ほとんどの人が、送料をかけたくない、自分の手で運んだほうが安心だ、という理由で大量の荷物を持ち帰っていました。
つまり、彼らにとってこの問いは、すぐに解決しなければならない切実な問題ではありませんでした。彼らの反応を見ていると、自ら望んで大量の荷物を抱えているとも感じました。いわゆる「爆買い」をした経験のない私にとっては、共感することが難しい悩みです。
もしこのアイデアを発展させるなら、私は自らの経験よりも他人の視点に頼らなければなりません。
問②:テクノロジーの進化について行けないシニア世代をどのようにサポートできるか?
最初のアイデアがうまくいかないとわかったあとも、あきらめるつもりはありませんでした。なにか自分も共感できる問題を探ろうと思い、自分の人生を振り返りました。すると、両親のことが頭から離れなくなりました。
コロナ禍の真っ只中、世界中のほとんどの人がリモートで仕事をしていた頃、両親からこんな質問をよくされていたことを思い出しました。
「携帯電話のアプリのアップデートとはなにか?」
「パソコンにログインするためのパスワードが思いだせない」
「画面のフォントの大きさを調整する方法を教えてほしい」
私たちには当たり前にできてしまうことですが、頻繁に連絡があったことを覚えています。もし私がいなければ、おそらく父も母も自分で対処することに耐えきれなかったでしょう。それでも忙しいときには、両親からの質問に答えるのが少し面倒になり、同じ世代の親を持つ同僚との会話のなかで、愚痴をこぼしながら笑い話にしたことがたくさんありました。同僚の多くも、両親や祖父母と多かれ少なかれ同じ問題を経験していました。
そのとき思考にスイッチが入りました。「テクノロジーの進化について行けないシニア世代を、どのようにサポートできるだろうか?」と。
まずは、実際に自分の家族に話を聞くことからはじめました。私の両親は「個人の携帯電話やノートパソコンを見知らぬ人に見せるのは不安だから家族を頼った」と教えてくれました。しかし、ユーザーが家族以外の人に助けを求める心の準備ができていないという事実は、あらゆる有償サービスを提供する際の大きな壁になる可能性があります。
そこでまた発想を変えることにしました。70代になり、30代のときと同じようには動けなくなってしまった父のことを考えました。日頃から運動をしているわけではないので、父の健康状態が心配になり「どうすれば高齢者に健康のための運動をもっとしてもらえるよう働きかけられるだろうか?」と考えはじめました。
問③どうすれば高齢者に健康のための運動をもっとしてもらえるよう働きかけられるだろうか?
この考えにたどり着いた頃には、アイデア提出の締め切りが迫っていました。すでにあきらめた2つの案のように、実際に話を聞いて彼らの行動を理解する時間はありませんでした。せっかく決まったアイデアも、急いで仕上げたために荒削りで説得力に欠けたものになってしまいました。
まさに時間切れと感じましたが、可能性を感じてもらえればと思いアイデアを提出しました。残念ながら、私のアイデアがピッチイベントへ選ばれることはありませんでした。落ち込んでいないと言えば嘘になってしまいますが、自分の失敗を恥ずかしく思い隠してしまうのではなく、なぜ自分がそこに至ったのかを学ぶ機会として見つめ直すことに決めました。
私が学んだのは、どんなに良いアイデアが浮かんでも、そのアイデアが解決する問題を特定し、理解することが重要だということでした。
私のシニア向けエクササイズのアイデアを例にすると、父が高齢で運動不足であることを知り、私はすぐに「運動して体を動かす必要がある」という結論に達し、父が実際に抱えている問題がなにかを深く考えずにアイデアの方向性を確定してしまいました。
70歳の父親にはどんな制限があるのか?体力的に苦労していることは?体力面だけでなく、精神の健康面で何かサポートできることはあるだろうか?などと考え、一歩立ち止まって考え直すこともできたでしょう。にも関わらず、私は解決策に夢中になり、一方的に突き進みました。
一歩立ち止まることで、私の思う父の望みではなく、実際に父が望んでいることにもう一度焦点を当てることができたはずです。
この経験から、自分自身が抱える問題や、身近で詳しく知っている問題を分析した方が良いと考えるようになりました。そのほうが、より多くの気づきがあり、解決へのモチベーションも上がるはずです。ほかの人が悩んでいることを解決しようと外に意見を求めるだけでなく、自分の問題に目を向け分析することが解決に値するアイデアの発見につながることもあります。
「良いアイデアを出すのはとても難しい」とよく言われます。新しいなにかを創ることは、今ある問題を解決することです。「良い」アイデアの表面よりも深いところにある、根の部分を見る必要があります。難しいのは、問題の根源そのものを理解すること。それができれば、そこからもっと良いアイデアに繋がる可能性があります。
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