2023年9月に設立された「株式会社エクオル」は、Moon発のデジタルワーク専用マッチングサービス「メタジョブ!」を独立させたベンチャー企業です。すべての人々に平等な働く機会を提供しようと、スポットワークのジョブマッチングプラットフォームなどを展開しています。そのアイデアが生まれたきっかけは?
目次
—社内起業家になった経緯は?
星野 尚広(ほしの・なおひろ)さん:2016年頃、元々Moon Creative Lab自体を作ったプロジェクトに参加していました。三井物産は10年ごとに長期ビジョンを作っており、その際の目玉施策がMoonでした。総合商社が目指す次のフェーズとして、ゼロからイチをつくることも始めようと、「つなぐ」から「つくる」へ、という標語を掲げました。
その後、2018年にMoonが立ち上がり、3回目のアイデア募集のときに自分のアイデアを提案しました。その際のソリューションの一つがデジタルワーク特化型のジョブマッチングプラットフォーム「メタジョブ!」でした。
最初は宅配ロボットの遠隔操作や、遠隔操作で工事現場にいかなくても工事ができるようなもの、たとえば遠隔医療などはその高度な例ですが、そういったものを束ねる「プラットフォーム開発」を考えていました。
ただ、遠隔操作ロボット技術はまだ実用化まで至っていないものも多く、すぐにでも取り組めそうな遠隔接客から取り組んでみることにしました。
—なぜデジタルが起点に?
星野さん:日本の人口動態予測や有効求人倍率を海外の方々に説明すると非常に驚かれます。7年ほど前にドイツポストの副社長と議論した際、「日本の高齢化問題は知っていたが、ここまで深刻だとは認識していなかった」と驚かれました。確かに、働き手不足は日本が抱える最も大きな課題の一つと言えるでしょう。ただ、これをミクロ視点でみると、「有効求人倍率=1以上だから人手不足である」という単純な問題でもないことにも気が付きます。
仕事の総量が働き手の総量を上回ったとしても、年齢、住む場所、病気、介護、学歴、職歴等々、様々な障壁があるが故に一歩を踏み出せない、そうした個々の課題が背景にあります。そもそも、仕事であれば何でも構わないという人も少ないでしょう。つまり、様々な就業条件が障壁となっているがゆえに、人手が不足しているように見えている、そのような側面もあるのではないかと感じています。
エクオルのビジョンは、「個の人生経験を企業の力に変えていく」です。その人ならではの人生経験を軸にした仕事を見つける手助けをすると同時に、企業活動を支援することで、単純労働ではないスポットワーク市場をつくろうとしています。
みんな同じ土俵に立って、自身のキャラを拠り所に同じ100mを走るようになると、これまでの価値軸とは異なった面白い世界が来ると感じています。
—就労障壁に課題を感じたきっかけは?
星野さん:私は、東京の下町に生まれ育ちました。両親は個人事業主でした。まわりにもそういう家が多く、そうした環境で育ったので、高校を卒業したら就職するか、学費を稼ぎながら大学に行くのが当たり前だと思っていたのですが、大学生や社会人になるとそうではない世界があることに気づきました。そのときに、「同じ100mを走るのにスタート地点にずいぶんと差があるなあ」と感じました。
それから私は、あらゆる人が同じスタート地点から競争できるような環境はつくり出せないだろうかと考えるようになりました。ポイントは「早く走れる靴」を開発しようとしている訳ではないという点です。あくまで競争環境を平等にする、英語で言えば「Level Playing Field」を目標にしており、それを実現するアプローチの一つが「デジタルワーク」だったということです。
—デジタルワークにおいても、過去のスキルや経歴に左右されるのでは?
星野さん:デジタルワーカーを企業と結びつけようとしたとき、早い段階で社会的信頼の担保が課題として見えてきました。しかし、スキルやキャリアではなく、個人の経験そのものが価値になるマッチングのあり方は実際に存在します。
その例の一つとして、2023年10月に一般社団法人移住・交流推進機構と共同でリリースした、移住相談サービス「イジュウチャット」があります。これは、移住を検討している人に対して、そこに住んでいる人が情報提供をするサービスです。2024年2月には、沼津市運営の移住・定住ポータルサイト「ぬまづ暮らし」を通じて「イジュウチャット for 沼津」を、6月には「イジュウチャット for いばらき」を提供開始しました。これを全国で提供できるようにしたいと思っています。
これまでは、移住検討者が知りたい現地の生活の利便性などを、各地域の役所の人が説明してきました。イジュウチャットでは、ChatGPTが大まかな回答をしたうえで、その先の詳細を住んだことのあるデジタルワーカーが答える仕組みになっています。たとえば、シングルマザーが住みやすいエリアはどこ?と質問を入れれば、経験者が答えてくれます。
これこそ、スキルではなくただの経験値が価値になるということです。そこで生活をしていました、ということそのものが価値になる仕組みです。この仕組みは移住だけでなく旅行にも使えますし、やりとりのログを大量にためることができるとデータ活用などの展開もあり得ます。
これまで私たちが様々な実践を繰り返して得てきた知見は、世の中の技術の進展によって応用できる範囲がどんどん広がってきています。最初に取り組んだリモート接客は、カラオケボックスを運営する企業と実践したものでしたが、ワーカーの感覚データを細かに取ることで、フリートークは難しいとか、占いの需要があるとか、いろいろな意見をもらいながら、クイズ、マーダーミステリー、早押しクイズの司会などを始めることができ、結果さまざまなデータを収集することができました。
今では、その知見を使って、特定の化粧品ブランドの商品を10年以上使っている人に話を聞くとか、ある企業がライバル企業のロイヤルユーザーに話を聞くとか、どんどん深いインタビューが可能になってきています。
世間的には、AIやロボットによる自動化への期待が高いと思いますが、実際100%自動化しようとするとそのコストは大きく、この先もAIと人の役割分担が重要なポイントであり続けると予想されます。そこで大きな役割を担うのが「デジタルワーク」だと私は考えています。
星野代表は、2023年9月14日に「株式会社エクオル」を設立。2023年10月に一般社団法人移住・交流推進機構と共同でAIと人による移住相談サービス「イジュウチャット」をリリースしたほか、2024年1月、中京テレビ放送株式会社と連携し、広告ではない方法でZ世代にアプローチするファン化サービス「スタディジャム」の提供や、消費者の率直な声を取得できるオンラインインタビューサービス「メタジョブリサーチ」の提供、カラオケの採点ツールとしてAIによる客観的な採点ではなくVtuberのデジタルワーカーによる「超主観Vtuber採点」を導入するなど、様々なアプローチを実践中です。
Moon Creative Labは、ほかにも様々なベンチャーをサポートしています。最新情報は公式ウェブサイトをご確認ください。
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