Studio Stories

醜い真実:アーリーステージの起業家は間違った問題に時間を浪費している

2024/10/03

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執筆者:ハビエル・マタ、人材開発と教育設計を専門とするワークショップ・デザイナー兼ファシリテーター。MBAプログラム、企業教育、ベンチャーキャピタルのイニシアティブなどで知られる大手企業のコーポレート部門において、ビジネス・マイクロラーニング・プラットフォームのデジタルコンテンツ開発チームを率いた経験もある。グロースとイノベーションの促進に情熱を燃やし、現実に通用するダイナミックな実践的学習体験にMoonの参加者を巻き込んでいる。ビジネス・イノベーション、デザイン、戦略に関心がある。


私はMoonでファシリテーターを務めるなかで、アーリーステージのビジネスにおいて、問題を十分に理解することなくソリューションの創造を急ぐ起業家たちと何度も出会ってきました。しかし、多くの場合は市場で勝つために必要な粘り強さを持たないアイデアに翻弄され、機会を逃し、時間を浪費していました。

すぐにソリューションへ飛びつき、あとになって意味のない問題解決に取り組んでいると気づくことがほとんどです。当初解決しようとしていた問題からどんどん遠ざかっていく人もいます。この記事は、そういった傾向に対する疑問への私なりの回答です。

問題領域を深く探求し、人々の苦痛を解消するだけでなく、問題解決の影響においてスケールの拡大が見込めるような、解決する意味のある問題定義のガイドラインを紹介します。

 

目次

-追求する価値のある問題を定義するには?
-問題解決にありがちな落とし穴
-結論:役に立たない問題への時間の浪費をやめること

 

追求する価値のある問題を定義するには?

あなたが本当に重要な問題のために努力できるよう、問題定義の際に考慮すべき3つの基準があります:

 

1.苦痛を伴う、解決せずにはいられない問題であること

その問題が当人にとって深刻な苦痛であるほど、ソリューションが強く求められます。苦痛は新しい機会と密接に関係しています。摩擦や損失、不便を解消するために、人はお金を支払います。

 

具体例:

日本の新興企業である「SmartHR」は、企業にとっての痛点、すなわち面倒な人事プロセスと労働法の遵守を問題領域として特定しました。給与計算、税務申告、その他の人事業務を自動化する、クラウドベースのソリューションを提供することで、人事部の管理負担を軽減し、日本で広く採用されました。もし、人事のペーパーワークを完全になくせる方法を見つけ出せたとすれば、きっとあなたはヒーローになれるでしょう。

 

アクション例:

不快感のレベルを測りましょう。方法は、ポテンシャルユーザーへのインタビューや、アンケート、フォーラムやソーシャルメディアでペインポイントを観察するなど、様々なやり方があります。人々の生活を目に見えて悪化させている問題に焦点を当てるために、その問題の不快感に点数をつけて取り扱うべきか否かを判断しましょう。

 

 

2. スケールの拡大が見込める問題であること

その問題を一つ解決することで、数百万人の痛みを解消できるでしょうか? 本当のマジックはここからです。問題の影響範囲が広がれば広がるほど、ポテンシャルマーケットも大きくなります。

 

具体例:

Slackは、ゲーム開発会社Tiny Speckの社内コミュニケーションツールとしてスタートしました。しかし、Tiny SpeckはすぐにSlackをもっと大きな問題、つまり、非効率的だった職場のコミュニケーションに対応するソリューションへと転換させました。今、Slackはあらゆる規模の組織にとって必需品となっています。小規模チームから大企業まで対応できる問題を解決している時点で、スケーラビリティの大当たりを引いたと言えるでしょう。

 

アクション例:

Googleトレンド、業界レポート、キーワードリサーチツールなどを使い、どれくらいの人がその問題を検索しているのか、あるいはその問題に影響を受けているのかを分析しましょう。様々な地域や層にわたる多様な人々を対象に調査し、需要を検証しましょう。問題が広範囲に広がり、拡大しているのであれば、スケーラブルな領域にいると言えます。

 

 

3. あなた自身にとって関心がある問題であること

その問題に関心がなければ、状況が厳しくなった瞬間にあっさり降参してしまうことでしょう。情熱はおまけではありません。問題解決のためなら、どんな困難にも立ち向かい、没頭しなければなりません。

 

具体例:

貧困者の働く機会を創出するサマソースの創設者、レイラ・ジャナは、「Underserved Community(十分なサービスや支援が受けられない、または不公平な扱いを受けている人々の意)」の苦境に深く共感していました。

彼女は、投資家から “NO” と言われ続けていたにも関わらず、貧しい人々が貧困から抜け出せるようデジタルワークの機会を作ることに情熱を傾け、献身的な活動をやめませんでした。彼女は最終的に事業を発展させ、何万人もの人々に変化をもたらすことに成功しています。彼女のように、時間を忘れて取り組めるような問題意識が必要でしょう。

 

アクション例:

その問題との個人的なつながりについて日記を書きましょう。そして自分にこう問いかけてみましょう。「解決に何年もかかるような問題であっても、私はこれに取り組むだろうか?もし答えがノーなら、その仕事は向いていないかもしれない」と。感情的あるいは、個人的に関心のある問題を選ぶことで、困難な時期にも強いモチベーションを保つことができるはずです。

 

 

問題解決にありがちな落とし穴

素晴らしい問題を見つけたとしても、解決のしかたを間違えることがよくあります。ここでは、私がよく目にする落とし穴を紹介します:

 

1. 本当の問題が、あなたが考えていたものとは違った

解決するべき問題が氷山の一角でしかない場合があります。明らかになっている結論に飛びつき、取り組むのは簡単だが、多くの場合、本当の問題はもっと深いところにあるものです。間違った問題に焦点を当てると、非効果的な解決策、時間の浪費、機会の逸失につながります。

 

具体例:

インスタグラムは、当初「Burbn(バーボン)」というチェックインアプリとしてスタートしました。多様なビジネス展開が期待されていた位置情報を重視したサービスです。ユーザーは様々な場所にチェックインして写真を共有できましたが、創業者たちはユーザーがチェックインに関心を持っていないことにすぐに気づき、飽和した市場で「Burbn」を差別化するのに苦労していました。

ユーザーが本当に求めていたのは、写真を共有するためのシンプルで視覚的に魅力的な方法でした。この深いニーズを解決するためにピボットすることで、インスタグラムはソーシャルメディアの強者になったのです。本当に求められているものを提供すれば、人は集まるのだとわかった瞬間でした。

 

アクション例:

問題をより深く掘り下げるために「5つのなぜ」メソッドを使いましょう。誰かが問題を指摘するたびに「なぜこうなるのか」と5回尋ねます。そうすることで、対症療法ではなく、解決すべき核心的な問題を明らかにすることができます。

 

 

2. 問題を探すために生まれた仮の解決策

ピカピカの新技術に心が踊り、ソリューションを作ってから、解決すべき問題を探し求めてはいないでしょうか?もしそうなら、めったに良い結果は生まれません。解決策は問題に適合したものでなければなりません。

 

具体例:

音声のみのソーシャルアプリ「クラブハウス」は、パンデミック時に人気が急上昇しましたが、一過性でした。話題にはなりましたが、長期的に、差し迫ったニーズを解決するようなものではありませんでした。また、ツイッターやフェイスブックのような他のプラットフォームがオーディオ機能をコピーしたため、ユーザーがクラブハウスに固執する理由はほとんどありませんでした。クラブハウスは、解決策となる持続的な問題を持っていなかったために、初期の勢いを維持することができなかったのです。結局のところ宣伝による効果は、列車に乗ることと同じ。終点までしか走れないということです。

 

アクション例:

ソリューションを開発する前に、それに対する明確な需要があることを確認しましょう。潜在ユーザーを調査したりインタビューしたりして、ソリューションが彼らの特定のニーズに対応していることを確認しましょう。ソリューションが解決する問題を明確に定義できない場合は、アプローチを再考するタイミングと言えます。

 

 

3. 問題に対する経験値不足

理解できない問題を解決することはできません。問題が発生する領域での経験は、何がうまくいき、何がうまくいかないかを知るための洞察力を与えてくれます。それがなければ、的外れなソリューションを生み出す可能性が高いでしょう。

 

具体例:

ハリウッドの重役ジェフリー・カッツェンバーグが設立し、ヒューレット・パッカードの元CEOメグ・ホイットマンが率いる短編ストリーミングサービス「Quibi」は、17億5000万ドル以上の資金を得て2020年にローンチしました。しかし、知名度の高いキャリアを持つにもかかわらず、彼らはストリーミング分野での経験が乏しく、モバイルユーザーの視聴習慣を理解できていませんでした。

10分以内の短編プレミアムコンテンツに特化したこのサービスは、YouTubeやTikTokのような無料プラットフォームには太刀打ちできませんでした。Quibiは立ち上げからわずか6か月で閉鎖されることに。知名度の高い企業であっても、問題に関する深い知識と経験がなければ失敗することを証明した例です。

 

アクション例:

自分が深い知識を持っている問題を選ぶか、そうである人と提携することが必要です。自分のネットワークを活用したり、リンクトインのようなプラットフォームを使ったりしてもよいでしょう。その問題の専門家を見つけ、つながること。深い知識を持つ人とパートナーを組むか、問題の影響を受けている人々と直接協力して、その分野の研究に没頭し、重要な洞察を得ることが大切です。

 

 

結論:役に立たない問題への時間の浪費をやめること

問題領域を探索することは、チェックリストを埋めていくような単純作業ではありません。アーリーステージの起業家として最優先すべきことは、誰も求めないMVPを何か月も(あるいは何年も)かけて作る前に、問題とソリューションの適合性を突き止めることです。正しい問題を突き止めなければ、正しい解決策を見つけることはできません。

多くの起業家は、問題を深く掘り下げる時間を取らなかったために、間違ったアイデアを追いかけて何年も無駄にしています。人々がお金を支払ってでも消したいと思うような苦痛を伴う、現実の問題を深く掘り下げましょう。

重要なのは、優れたソリューションを生み出すことだけでなく、正しい問題を解決することです。これを理解することで、単にゲームをプレーするだけでなく、勝つことが可能になるはずです。

 


Moon Creative Labでは、スタートアップを支援するためのプログラムを複数提供しています。ご自身のビジネスアイデアと成長に変革をもたらしたい方はぜひ参加をご検討ください。詳しくはウェブサイトのトップページから。

 

Top Photo by Dan Asaki on Unsplash.

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