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ソファから赤ちゃんが落下 子供の夜泣き改善アプリが生まれた理由|Lullaby

2023/09/05

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Lullaby(ララバイ)は、乳幼児の夜泣き改善・寝かしつけをサポートするサービスです。今では子育て全般の悩みをサポートしていますが、なぜ夜泣き改善(海外から伝わるメソッドスリープトレーニング)に着目したのか。そのアイデアが生まれたきっかけは?

 

目次

  1. アメリカで出産 
  2. ソファから赤ちゃんが落下
  3. スリープトレーニングの効果
  4. 睡眠不足は大きなペインポイント
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田子友加里:アメリカで出産を経験した1児の母。三井物産からMoon Creative Labに出向し、Lullabyを事業化。育児中夜泣きに悩んだが、アメリカで知ったスリープトレーニングを実践し、劇的な改善を経験した。EdTech業界でのスタートアップ投資経験なども活かし、夜泣き改善のアイデアを実現した。

1.アメリカで出産

田子:「Lullaby」の立ち上げには、アメリカで出産した経験が大きく影響しています。手続きや準備などが日本よりも不便で大変だった一方で、ママたちが持つ育児リテラシーが高かったことに驚きました。

日本は安全で保険も充実しています。乳幼児医療証があれば当たり前のように無料で医療を受けることもできます。まず、アメリカはその前提が違います。たとえば現地のママ友の家には、付箋だらけの分厚い薬の辞典が置いてあり、話を聞くと医師から薦められた薬にジェネリックがないか、より安い選択肢がないか、どんな検査を薦められたかなどの詳細を調べつくし、担当医の意見とは違う選択肢を自ら提案することすらあると言っていました。

出産の手続きに関する違いもありました。出産する病院を自分で決め、さらに自分が入っている保険の適用される産婦人科医を予約する必要がありました。出産直後からは小児科医の先生が担当することになり、事前にその先生の予約も必要でした。病院と医師の予約を別々にすること自体大きな違いでしたが、知り合いに病院のおすすめを聞いた際に「○○病院ならぼったくられない」と返事が来たときはさすがに驚きました。

結局、現地の知り合いも少なかったので、クラシファイドサイト(日本ではジモティに代表される、地域やジャンルごとの広告掲示板)なども使いながら情報を集めて病院を決めたのですが、そういった情報収集にママたちが長けていたことが印象に残っています。また、カリフォルニア州では、産後3か月で仕事に復帰することが珍しくなく、そのための準備に時間やお金を投じることが当たり前のようでした。

そうして経験してきた物事のうちの一つとして、日本のように添い寝や抱っこで寝かしつけるのでなく、赤ちゃんが自分の力で眠りにつけるように習慣づける​​スリープトレーニングの存在も知ることにもなりました。担当の産婦人科医に教えてもらい、「そんなにフラフラじゃ元気に子育てできないわよ」と指摘されたこともありました。

それでも実際にスリープトレーニングのコンサルティングをうけるかどうかは迷っていたのですが、子供が生後6か月になった頃に起きた出来事をきっかけに、その必要性に駆られることになりました。

 

2.ソファから子供が落ちた

スリープトレーニングが私にとって大きな意味を持つことになったきっかけは、赤ちゃんの夜泣きで眠れず、自分で自分をコントロールできないほど疲弊してしまったことにあります。

私は入社後、研修で2年ブラジルに赴任しており、EdTech事業の新規開発を担当していました。出産前後は休暇を取り、アメリカで働いていた夫の元で生活していました。同僚が働いているのを横目にしながら、漠然とキャリアに不安を感じていた頃です。

赤ちゃんが生後6か月の頃は、まだ夜泣きが続いている状況で、私自身、日中も常に頭がぼんやりしていることを自覚しているような状態だったのですが、少しの間ソファに寝ている赤ちゃんを置いてちょっとだけ目を離した隙に、赤ちゃんが起き上がりソファから落ちてしまったんです。多分、寝不足でなければ、目を離さなかったか、もしくは赤ちゃんが起き上がった瞬間に気づいていた、と思います。

さいわい大事には至らなかったものの大パニックになり、大急ぎでタクシーを呼んで病院に行ったことを覚えています。そのときに、もっと大けがをさせてしまったらどうしよう、と恐怖を覚えました。それが理由で、本格的に夜泣き改善に取り組み、スリープトレーニングのコンサルティングを受けることを決めました。

 

3.スリープトレーニングの効果

それまでも、スリープトレーニングについては検討していました。私が出産を経験したカリフォルニア州のママたちは、産後3か月で職場復職することが多いようで、スリープコンサルタント(寝かしつけ・夜泣き対応のプロ)と契約して睡眠環境を整え、夜泣き・寝かしつけ対応が万全の状態で復帰することが当たり前でした。

私自身「The Happiest Baby on the Block」という有名な本を、生後3〜4か月の頃から読んではいました。でも、本で読んだだけではなかなかうまくいかず、コンサルティングを依頼するかどうか検討はしていたものの、どうしようか迷ってもいたんです。

それでも、ソファのことがあって、自分の頭が働いていないことも自覚していたので、すぐに相談しようと決めたんですね。それで、実際にコンサルティングを頼んで夫と一緒に取り組みはじめたところ、3日目ぐらいから明らかに変化が見えたんです。

具体的には、寝かしつけたあとに部屋から出て、モニター越しに赤ちゃんを見守っては、泣き始めから泣き止むまでの時間を測ったり、5分泣かせて、2分だけ接触して、またちょっと離れる、といったことをタイマー表を見ながら実行したりしました。アメリカでは夫の帰宅が早く、一緒に取り組めたということも大きかったかと思います。1人だったら泣き声を聞いた時点で心が折れてしまっていたかもしれません。

すると、最初の1日2日は荒れましたが、すぐに適応しはじめたんです。結果的に、数週間後には魔法に掛かったように夜通し寝られるようになり、そのことが嬉しくて嬉しくて、インスタグラムでシェアしたら、日本にいる友達から「どういうこと!?」と質問が殺到しました。

実践したほかの方々からも同じ反応がありましたし、ララバイアプリのユーザーさんからいただいたコメントを見ても、おおよそ3日目くらいから変化が見え始めたという反応が多くありました。もちろん個人差はありますが、スリープトレーニングの魅力はそこなんです。改善がすぐに見えるんです。

私にとってはあまりにも劇的な変化でした。当時科学的な根拠がある論文も読み込んではいましたが、もしかして知識さえあれば子育てはもっと楽になるのではないかと感じました。

結果的に私は睡眠時間を確保できるようになり、さらには19時以降に自分の時間を持てるようにもなったので、UCLAの夜間授業(UCLA Extension)を受けることもできるようになりました。今思えば、出産後3〜4か月の頃は、まだ赤ちゃんに夜通し寝る体力がついてない時期なので、スリープトレーニングのハードルも高いんです。そうした知識もあれば、気持ちに余裕も生まれたはずです。

 

4.睡眠不足は大きなペインポイント

EdTech業界の新規事業開発が業務だったので、当時は国内外のスタートアップの話を直接CEOやCOOから聞く機会に恵まれていました。そこから漠然とスタートアップの世界に魅力を感じていたのかもしれません。

その後、2016年に妊娠、2017年に出産、産休・育休を取得したのち、2018年から復職したのですが、そのときに思い出したのが、起業した三井物産の先輩の言葉でした。

彼が言っていた新規事業で大切なことは「深いペインポイントを見つけること」でした。それが深く、いくらお金を支払ってでも解決したい課題であれば事業として成り立つはず。だからそこをまず突き詰めるべき。ずっとそう言っていました。

そんなときに息子が生まれ、生まれて初めてコントロール不可能な睡眠の課題に直面したわけです。今までの人生で一番心身共に疲弊した経験でした、まさにペインポイントでした。

さらに、明確な解決策はアメリカにあったけれども、日本にはなかった。「これだ」と思いました。その後、このアイデアを事業化すべく情報収集等を続け、復職後にMoonの最初のピッチイベントが行われることを知り、2019年に応募することにしました。良い機会だと思いました。それで、5月に「Lullaby」のアイデアでピッチをしました。それが子供の夜泣き改善という事業が生まれたきっかけになります。

後日、監修医として参画してくださった森田麻里子先生の調べでも、寝かしつけに関する悩みはとても大きなものだということがわかっています。

愛媛大学が2018年に発行した資料によれば、3歳児の総睡眠時間の長さを主要17か国で比べると、日本が最下位(*1)。

子供だけではありません。OECDが発行した2016年のデータによれば、日本の成人男性の睡眠時間は、当時のOECD加盟国35か国に、中国、インド、南アフリカを加えた計38か国中、4番目に短く、成人女性の睡眠時間は最下位だったことがわかりました(*2)。

日本では、睡眠不足は大きな問題であり、これを原因として、仕事の復帰への不安を感じたり、子供が寝なくてイライラして喧嘩して夫婦仲が悪化し離婚してしまったり、産後クライシスや産後うつのような状態になる方も多くいます。この夜泣き問題をどう改善するかという方法論は日本ではまったく確立されていませんが、ねんねトレーニングの効果にはエビデンスがあります。

森田先生によれば、米国睡眠医学会が任命したタスクフォースによる52の研究をレビューした結果がアメリカ国立生物工学情報センターのウェブサイトで公開されており、研究のうち94%は夜泣き改善に効果があったことが示されているほか、8割以上の子供に夜泣き改善の効果がありました(*3)。結果がしっかり出ているのに、日本では医療機関や助産院などに行っても指導してもらえません。

新型コロナウイルス感染症が流行した影響で、もともと15%ほどと言われていた産後うつの割合が、約30%に増加したという研究結果もあり(*4)、メンタルヘルスへの影響も大いに考えられます。そして、その原因の一つが、赤ちゃんの睡眠に関する問題です。

これを解決するのが「Lullaby」の役割だと思っています。


現在「Lullaby」は、スリープコンサルタントとのマッチングや、睡眠医療医による監修のもと信頼できる育児情報の発信、そのほか子育て全般の相談を行うサービスを展開するなど、事業の領域を拡大しています。

Pigeon社との共同開発も始まり、2023年7月からは、自治体向けにアプリの利用やママやパパ向けの睡眠セミナーの提供など、複数のサービスを組み合わせた『ねんね改善パック』を提供する予定。乳幼児を持つ家族の睡眠改善の有効性の実証実験を、柏原市(大阪府)、行方市(茨城県)、大月市(山梨県)、行田市(埼玉県)、盛岡市(岩手県)の5自治体にて順次開始。最新情報は「Lullaby」のホームページインスタグラムでご確認を。


*1 厚生労働科学研究費補助金:未就学児の睡眠・情報通信機器使用研究班(編).未就学児の 睡眠指針.愛媛:愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター,2018.

*2 Average minutes per day spent sleeping in OECD countries plus China, India and South Africa by gender, as of 2016

*3 Behavioral treatment of bedtime problems and night wakings in infants and young children

*4 コロナ禍で出産・育児を経験した女性の「産後うつ」の割合が倍増|Drastically increased postpartum depression during the COVID-19 pandemic and its association with social restrictions.


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