Moon Stories

【GXの未来を創る起業家対談】プロダクト・組織開発のヒントとは?|Moon Talk! Vol.3

2023/09/21

近年、地球温暖化やカーボンニュートラル実現に向けた国際的な取り組み強化を背景に、グリーン分野(GX)のスタートアップは、気候に特化した企業だけでも3000社あると推定されるほど台頭してきています。

Moon Creative Lab(以下、Moon)の定期オンライン・トークイベント「Moon Talk!」では、社会的にも経済的にもインパクトの大きいグリーンテック領域で様々なチャレンジを続ける2人の起業家をお招きし、成功するプロダクトや組織づくりの秘訣について対談形式でお伺いしました。

本記事は、2023年8月31日に開催した「アントレプレナー vs イントラプレナーが語るGXの未来」の開催レポートです。

image6.jpg
写真左から、e-dash株式会社の山崎冬馬社長、デジタルグリッド株式会社の豊田祐介社長。

Moonのオンライン対談に登壇くださったのは、デジタルグリッド株式会社の豊田祐介社長と、e-dash株式会社の山崎冬馬社長です。

豊田社長は、大学卒業後に証券会社で金融商品組成やメガソーラー開発・投資等に携わったのち、創業メンバーとして2018年にデジタルグリッドに参画し翌年より社長を務めています。

山崎社長は、三井物産で電力等インフラ事業の開発およびM&A業務を経てシリコンバレーに駐在。約5年間、現地のグリーンテック分野へのベンチャー投資・事業開発を担当したのち、帰国後に三井物産の社内起業家としてe-dashを設立、現在社長として事業を指揮しています。

この日は、Moonにてサステナブル領域のビジネスリードを務める国枝がファシリテーターとして参加し、同じ領域でありながらも、起業家、社内起業家としてのそれぞれの立場から見えること、感じることをカジュアルにお話しいただきました。

 

目次

  1. 起業家、社内起業家として脱炭素領域に着目した理由
  2. プロダクト開発で直面したチャレンジと乗り越え方
  3. 大きなビジョンを実現するには…ステークホルダーの巻き込み方
  4. Q&A:資金調達や採用について

 

1.起業家、社内起業家として脱炭素領域に着目した理由

国枝:豊田社長は起業家として、山崎社長は社内起業家として、それぞれ脱炭素領域に取り組んでいらっしゃいます。この分野に着目した理由とはなんだったのでしょうか?

 

豊田社長:大学の研究室時代から再生可能エネルギーの分野に着目しており、将来的に「(使用する電気を識別する目的で)電気に色をつけて自由にやりとりできたら面白いな」と思いながら研究に取り組んでいました。

通信分野で起こったような急速な進化がエネルギー分野でも起こるのではないだろうか。また、地球での発電量の20万倍ともいわれる再生可能エネルギーの巨大なポテンシャルに注目し、<エネルギーに困らない世界>を目指して研究をしていました。

一緒に会社を始めた恩師である阿部先生(在学時は、社会連携講座の特任教授としてデジタルグリッドの研究を熱心に推進。現在は、株式会社DGキャピタルグループにて代表取締役兼CEOを務めながらハードウェア開発等に従事。)が目を輝かせながら語っていた、『30年後の未来をつくる再生可能エネルギーを支える』というビジョンにも深く共感していましたので、GXへ取り組むことはぼくにとって自然な流れでした。

山崎社長:三井物産入社以来、プロジェクト本部で電力関係の事業開発に携わっておりまして、そこで大きなトレンドの変化に気づく機会がありました。

その後、2015年から5年間、シリコンバレーに駐在し、グリーンテック、クライメート関係のスタートアップへの投資や共同事業開発をする中で、現地の起業家たちが心血を注いで事業に打ち込んでいる姿やその環境、その世界を目の当たりにしたことが、GX分野でビジネスを始める大きなきっかけとなりました。

 

2.プロダクト開発で直面したチャレンジと乗り越え方

国枝:同じ領域ながら、ディープテック寄りとソフトウェア寄り、それぞれの開発のスタート地点が少し異なります。それぞれのお立場でのプロダクト開発におけるチャレンジと、どのように乗り越えてきたかについて聞かせてください。

 

豊田社長:現在は、天候に左右されやすい再生可能エネルギーを色々な会社に届けるためのプラットフォーム(ソフトウェア)を開発していますが、プロダクト開発当初は、自由に電力をやり取りするために電力を制御するハードウェアを作っていました。生物とも言える電気を蓄電池から適切なタイミングで売ることができるハードウェアを開発し、環境省の実証プロジェクトなども行ってきました。

2016年頃からは、ブロックチェーンが話題となり、ハードウェアと組み合わせて追跡・制御をすることができれば、理想のビジョンが実現すると考えて取り組みを拡大しました。

その後、ハードウェア、ブロックチェーン、AI、とすべての機能を盛り込んだ製品にリソースが分散してしまい、一つひとつの分野を突き詰めるにはリソースが足りないという状況を経験しました。

その過程を踏まえて、現在は、AIやソフトウェアにフォーカスをして開発を進めています。

山崎社長:プロダクト着想当初から、大きな枠組みとしての「エネルギー消費のデータ管理」というテーマから大きく変わらずに開発をしてきています。

開発にあたっては、豊田社長からは教科書通りと言われるかもしれませんが(笑)、Moonの支援を受け、プロトタイプを制作し、ユーザーの声を聞きながら継続的に開発し、顧客のペインポイントと向き合いながら進めています

 

国枝:プロダクト開発において障壁を乗り越える秘訣を一言で言うとなんでしょう?フリップボードに書き出していただきました。豊田社長からお願いします。

image5.jpg

豊田社長:「冷静と情熱」です。「自由に電力をやりとりする世界を実現する」という強い情熱をもって私たちは事業を進めています。イノベーションを創出するには、たしかにそうした情熱によって、限界までアクセルを踏む必要があると考えています。

一方で、ビジネスとして成立するのかを、想いとは切り離して冷静にジャッジすることも必要で、その難易度が非常に高いと感じています。実際に、数年前にうまくバランスをとれていない時期もありました。今でもいかにして、情熱と冷静さの相反する心構えを保ちながら、ビジネスとなるイノベーションを創出するかを考えています。

また、冷静になるために心がけていることとしては、信頼できる仲間の意見に耳を傾けるということ。自身のビジョンはブレないようにしながら、客観的な意見を聞くようにしています。

 

国枝:ありがとうございます。では、山崎社長からもお願いします。

image2.jpg

山崎社長:「Confirmation Vias(確証バイアス)」です。3分クッキングのように急いでフリップボードを用意したのですが、見事に豊田社長と被ってしまいました(笑)。

新規事業をゼロから立ち上げようというとき、ニーズが必ずあるはずだという強い思い込みで、ドライブできる部分は大いにあると思います。

一方で、一度勢いよく走り始めたら、自分の中で葛藤を抱えながらも冷静に状況を見て検証していくことを心がけています。チャレンジングですが、今も大切にしていることです。

なんにせよ、「やりたい!」から始まっているからこそ、むずかしいのだと感じます。

 

3.大きなビジョンを実現するには…ステークホルダーの巻き込み方

国枝:山﨑社長は三井物産傘下の事業会社として、豊田社長は多数の出資を受ける会社組織として、大きなビジョンを実現するために、どのようにステークホルダーを巻き込んでいくのか、その辺りをお聞かせください。

 

山崎社長:三井物産から100%出資を受けた子会社として事業をしています。社内の繋がりなどから様々なパートナーと組んで、顧客開拓を進めています。

これまで三井物産として会社を立ち上げてきたノウハウがあるため、人事制度や決算、経理周りのバックオフィスにおける支援を受けながらやってきています。

一方で、商社という特性上、プロダクト開発の専門人材はいなかったため、コードをかける人材などを採用して進めています。また、SaaSという特性上、カスタマーサクセス、フィールドセールスなどを担うことができる人材を集めて、組織を運営しています。

豊田社長:デジタルグリットの場合、株主が合計60社に上り、そのうちベンチャーキャピタルは1社のみで、大多数は大企業です。ステークホルダーが非常に多く、株主総会では100名近い人が集まることもあります(笑)。

ステークホルダーの多様性については、日本で唯一無二のプラットフォームを目指すために色をつけてはいけないと考えて、1業界1社のみではなく、複数社に参画していただく方針をとっています。

加えて、出資いただいた方には、当時のコードやロジックなどの情報にアクセスができるようにし、意見をもらいながら進めるオープンイノベーションの形をとっていました。

 

国枝:では、お互いから見た、スタートアップ型、社内起業型、それぞれのメリットについて感じることをお聞かせください。同じくフリップボードに書いていただきました。山崎社長からお願いします。

image3.jpg

山崎社長:「Partners(パートナー)」。豊田社長の進め方をみて、株主である大企業が、顧客にもなりえ、事業構築のパートナーにもなりえることは、非常に大きな強みだと感じています。

アルファドライブの創業者である麻生さんが書かれた『新規事業の実践論』という書籍のなかで、大企業からスピンアウトして事業をつくることの難しさは「資金調達」だとあります。そうした点からも、多くのパートナーに支えられ得るということは非常に大きなメリットだなと感じます。

 

国枝:ありがとうございます。では、豊田社長からもお願いします。

image1.jpg

豊田社長:「強くてニューゲーム」。山崎社長と話をしていて、長い歴史を持っている会社から新規事業を起こすというのは、レベルの高い武器をはじめから持った状態で戦闘を開始できるゲームのようだと思います。

例えば、Moonの支援を受けプロダクトを開発したり、バックオフィスのノウハウを展開することができる。そうしたアセットを活かし、カスタマイズすることができるというのが大きな強みだと感じます。

スタートアップで0から1を創る人たちには、効率が悪いところもあって、人事制度ひとつとっても、時間をかけて構築していく必要があります。長い歴史をかけて培ってきたノウハウを取り入れ、最適なものに変えていくことができれば、とても大きな武器になるのではないでしょうか。

 

4. Q&A:資金調達や採用について

——そのほか、視聴者からの質問にはこんな回答も。一部紹介します。

 

Q:信頼のおけるエンジニアを採用するためには?

A(山崎社長):1人目の優秀なプロダクトマネージャーを採用することが重要。そこから一気に採用が進みやすくなります。

 

Q:ステージ毎の資金調達に関するアドバイスはありますか?

A(豊田社長):各ステージにおける約束やマイルストーンを一つひとつ達成していくことや、ステージアップが必ずしもできない場合でも、その原因と次の打ち手を説明して進めていくことが重要です。


終わりに

このブログで紹介したのはイベントで語られた内容のほんの一部です。豊田社長・山崎社長からは、GXやクライメートテックと呼ばれる領域の魅力や機会、大企業のアセットを活かした新規事業のポテンシャルなどについて様々な視点でお話しをいただきました。

二人は、脱炭素のなかでも「カーボンソフトウェア」と呼ばれるプロダクトを開発・展開しており、お互いに共通する心構えやアプローチ、社内起業ならではの戦い方や、多様な大企業と推進する事業づくりなど、多くの学びを共有してくださいました。

Moon Talk!では引き続き、企業におけるイノベーション、スタートアップ創業者のストーリー、デザインやテクノロジーの深堀などこれからの事業戦略や新規イノベーション創出に役立つ情報をお届けしていきます。ぜひ次回もお楽しみに。

最後に、2人の熱いメッセージをお届けします。

豊田社長「新しいことを楽しみながら、未熟な業界だからこそ勝つことを目指して取り組みたい」

山崎社長「最高に面白い業界なので一緒に盛り上げていきたい」

Share on

Related stories

キャリウムが、2025年7月1日に新機能「AIキャリアデザイナー」をリリース。

Read More

ケーススタディを作成されたIMDおよび著者のみなさまに心から感謝を。

Read More

三井物産 流通事業本部の孫 ゆうさんが、Moonで参加したOpen Workshopsの実体験をシェア。

Read More

Join the Moon Community!

Get early access to news, workshops, and events across our Palo Alto and Tokyo studios.